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Amphibian Ark NewsletterNO.36 キタヒョウガエルを帰そう(カナダ)

カナダの2州におけるキタヒョウガエルの再導入の試みの概観

(2017/5/19発行)

リー・ランダル(個体群生態学者、カルガリー動物学会、カナダ)

めんどりがコッコッコッコッと連続して鳴いているようなユニークな鳴き声で知られるキタヒョウガエルは、かつてカナダ西部の水辺で普通に見られました。しかし、この斑点のあるカエルは、1970年代から80年代にかけてブリティッシュコロンビア州やアルバータ州でほとんど鳴き声が聞かれなくなるほど減少が進行しました。

減少の原因としては生息地の破壊や消失、水質や水量の低下、外来種の魚の移入、そして病気などが関係していると見られています。減少する前の状態と比較するデータはありませんが、ブリティッシュコロンビアやアルバータにおける個体群の減少にカエルツボカビ症が第一の原因になっている可能性は大いにありそうです。

キタヒョウガエルは、生息範囲の縮小や個体数の減少によって、ブリティッシュコロンビアのロッキー山脈の個体群が絶滅危惧種(EN)になったり、アルバータ、サスカチュワン、マニトバなど北部生息域の寒帯プレーリーの個体群が要注意種(SC)になるなど、国の絶滅危惧回避行動指定種(national Species at Risk Act designations)になっていく現象が起きています。アルバータではキタヒョウガエルは絶滅危惧種(Threatened)であり、残存している個体群は孤立し、遺伝的多様性が減少するなど、近隣に新たな個体群を生じることがますます困難になっています。

この2つの州にとって再導入により野外に新しいカエルの個体群を作り出すことは大切な保全戦略になっています。ブリティッシュコロンビアでは、先取りスタート(head starting)
と呼ばれる飼育柯繁殖計画が両生類の保全を効果的に進めるために欠かせないプログラムと見なされています。アルバータでは、カエルを野外に再導入する方法は、卵塊の移入や飼育柯で成長させた個体の放流(head starting)で行います。この個体群を復活させる仕事は、ブリティッシュコロンビアとアルバータ2州の政府と、カナダ国立公園、クレストンバレー自然保護区、アルバータ保全協会、カルガリー動物園、その他地域の環境保護団体の生物学の専門家たちによって進められます。しかし、再導入の仕事はとても複雑であり、カエルを野外の水辺に戻す前にさまざまなことを試みる必要があります。

■再導入の実行可能性

新しい場所に移す卵を供給できる野生の生息地がいくつかありますが、ブリティッシュコロンビアでは2つの供給源しかありません。ひとつは、クレストンバレー自然保護区の野生の生息地で、もうひとつはバンクーバー水族館にある安定した個体群です。キタヒョウガエルには、繁殖が可能で、エサ動物がいて、冬を越せる生息地が必要です。理想とする生息地には病気や汚染、寄生虫、外来種、ロードキルなどの心配がなく、個体群を維持できる充分な広さの範囲が求められます。

■新しい生息地への移動

2003年から2015年の間に3回に分けて40000匹のオタマジャクシや上陸して間もないカエルをブリティッシュコロンビアの2地域、コートニー川上流の氾濫原とコロンビア湿地帯に移しました。

アルバータでは、再導入が30年以上かけて進められました。この間に、たくさんの卵が繁殖地から集められ、卵塊や幼生・幼体のカエルがアルバータ中央部や南部の9ヶ所以上の場所で放されました。ウォータートン湖国立公園や州内のその他地域では今も今も再導入が続けられています。

■成功例の見聞

ブリティッシュコロンビアでは、コートニー川上流の氾濫原で繁殖とその調査の映像化を成功させています。ここでの再導入は一応の成功は見ていますが、個体群のサイズが小さく将来的な繁殖が可能になるかどうかはまだ確信できません。コロンビア湿地帯では繁殖を期待するにはまだ時間がかかりそうですが、導入した卵塊からふ化したオタマジャクシが変態を終えて若いカエルになっているのが観察されています。

アルバータでの再導入はいろいろな成功があり、最も大きい成果はマグラスの近くの放流地で導入したカエルが越冬し、2005年から毎年繁殖ができるようになりました。

■学ぶべきこと

再導入はとても挑戦的・変革的な試みで、ブリティッシュコロンビアでもアルバータでも例外ではありません。2つの州におけるキタヒョウガエルの再導入は成功とするには不十分ですが、30年にわたるこの努力は、将来的な保全活動のための有効な試みになったということができるでしょう。

例えば、ブリティッシュコロンビアでの結果は、生息地再生の最低限の成功にたどりつくことさえも5年間にわたる毎年の放流が必要であったこと、さらに生息地内での自然繁殖により個体群が維持できるようになるまで放流を継続する必要があることを示しています。さらに、これらの放流事業の成果を確認するためには、その5年を上回る長期のモニタリング調査(事後の経過観察)が必要です。

また、キタヒョウガエルの減少にツボカビの存在は複雑に影響していて、その存在が再導入の失敗の原因と考えられる証拠はありません。たとえば、ツボカビはコートニー川上流の氾濫原での再導入で発見されたにもかかわらず、導入されたキタヒョウガエルは小さい個体群をつくることができました。

結果として、アルバータとブリティッシュコロンビアでの経験では、卵やオタマジャクシを放流することが若い成体を放すよりもコストがかからず、ウイルスや寄生生物に侵される危険も低いことがわかりました。

10年単位で行われた努力ですが、野外でのキタヒョウガエルの将来はまだ弱々しいものがあります。もし私たちがブリティッシュコロンビアやアルバータの湖沼地でこのカエルたちの鳴き声を聞き続けたいのであれば、再導入の努力をし続けるべきでしょう。成功させるには継続することがとても大切なのです。

AArk Newsletter NO.36 September2016
(翻訳 高山ビッキ 監修 桑原一司)

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