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「ものいうウサギとヒキガエル」
猪熊葉子
偕成社 1992年5月初版1刷
この本は、英米児童文学研究家の猪熊葉子によるビアトリクス・ポターとケニス・グレアムを対比的に分析した評伝である。両者は英国の19世紀後半から20世紀前半を生きた童話作家であり、ポターといえばピーター・ラビットシリーズ(=ウサギ)、そしてグレアムはその作品『たのしい川べ』のなかにヒキガエルを登場させた。
評伝では、彼らが生きたヴィクトリア時代を背景に、産業革命がもたらした富める中産階級を中心としたイギリス社会の人々の考え方の変化や、都市と自然の対比を受け入れる生活スタイルから捉え直された西欧的自然観が、彼らに擬人化した動物、つまり「ものいうウサギとヒキガエル」のストーリーを生み出させた過程と必然性を詳述していく。
著者はふたりの作家がそれぞれの動物たちに込めた思いの相違点に着目し、いかにもと思える興味深いエピソードを紹介している。『たのしい川べ』のなかで、冒険の果てに仲間たちによって救い出されたヒキガエル氏が髪をなでつける場面があるのだが、それをポターは「ヒキガエルの生態に合致しない不自然な空想である」とグレアムを非難したというのだ。
これについて著者は、自然を現実として受け止めて親しい動物たちに名前をつけて擬人化したポターに対して、グレアムが生み出した世界は「現実の写しとしての世界ではなく、新しい価値の具現化しているユートピア的世界であった」と説く。
同じカエルでもポターのカエル、ジェレミー・フィッシャーどんとグレアムのヒキガエル氏にはそんな違いがあるのかと改めて比べてみたくなる。


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