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「カエルの学校」
作者・森壮已池(もりそういち)
発行:未知谷 2003年3月19日発行
 岩手県盛岡生まれの森壮已池(本名・佐一)(1907−1999)は、岩手日報社で学芸欄を担当し、退社した後文筆活動に専念し、昭和19年に『蛾と笹舟』『山畠』の2作品で直木賞を受賞した作家である。
 そして、この『カエルの学校』は、1952年に「岩手の警察」という官庁の雑誌に発表された作品である。これが創作される経緯についてはわからないが、掲載された雑誌の編集方針からだろう、舞台は「カエルの世界」であり、主に「カエルの学校」だが、語られるのは自殺や殺人、男女の色恋沙汰、教育問題や政治の退廃など妙に人間くさい。
 これを単なる「カエルの擬人化」と捉えると、「人間社会の風刺」になってしまいちょっと寒々としてしまうのだが、初めにカエルの世界ありきで、そこから人間の世界を見るととても愉快になってくる。
たとえば、 カエル界の一流新聞は『カエル夕陽新聞』(カエル界は夕陽以降の夜が活動時間だからこの名前になっているらしい)。その新聞社が提携先のテレビ局と行った座談会のことを描いたシーンがある。テーブルにはカエル界最高の料理人が作ったごちそうが並ぶ。「ボウフラのフライ。糸ミミズとツユ草の花の酢の物、トンボのしっぽのソーセージ。オケラの脳みその塩から。」これをおいしそうと思ったあなたは相当カエラー度が高いといえるだろう。
 カエルがひとつだけ、人間にかなわないと思っていることがある。それは日本酒づくり。カエル界にもお酒はあるがそれは花蜜酒で、アルコール分はあるかなきかの微弱なものなのでとても酩酊できるような代物ではないらしい。 東北は米どころ、酒どころ、そしてカエルどころである。
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