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「カエルの無意識 ネコの知恵」
森 省二
筑摩書房
童話や昔話などのメルヘンには、さまざまな動物が登場するものがある。その動物たちがそれぞれどんな意味をもっているのか精神医学的に、臨床心理学的に解析した本である。
著者は児童精神科医として臨床に従事する立場からメルヘンを読み解き、先に『メルヘンの深層心理ー登場人物からのアプローチ』(ちくまプリマーブックス)を出版。同書はその姉妹編である。
動物たちはこの本のなかで、「意識と無意識をつなぐ動物たち」「人間を助ける動物たち」「虐げられる動物たち」「悪役の動物たち」「空想上の動物たち」に分けられて、メルヘンにおいてそれぞれの動物が人間の心理の何をシンボリックに映し出しているかが解説される。
ここでカエルは「意識と無意識をつなぐ動物」として取り上げられている。
心理学者のC.G.ユング(1875−1961)は、ひじょうに身近な関心を引く研究では夢分析で知られるが、意識と無意識の関係を陸と海にたとえた。意識が目に見える世界だとしたら、無意識は目に見えない世界、混沌として恐ろしくもある世界。著者はユングの心理学に基づきながらカエルの意味を説く。(余談だが、ユングの命日は6月6日。日本でこの日は最近カエルの日として親しまれている。)
カエルが両生類であることは、人間の心理に与える意味も大きいようだ。特にグリム童話においては、登場人物の無意識を意識化させることにカエルが一役買う場面があることを著者は指摘する。また、カエルはメルヘンのなかで両性具有的であり、人間の意識を成熟させる上に欠かせない無意識のうちのアニマ(女性原理)とアニムス(男性原理)の統合に重要な役割を果たすことにもふれている。

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