カエルタイムズ2014年号 カエルの歯の話
カエルの歯を見たことがありますか?
(2014/1/10発行)
オタマジャクシの上唇と下唇には、それぞれ複数の歯列があって、そこには「角質歯」と呼ばれる歯が生えている。オタマジャクシが成長するにつれて、次第に歯列と角質歯が形成されるのであるが、実はこの角質歯、上皮が角質化したもので、厳密な意味の歯ではない。肘や踵の皮膚が厚くなり、硬くなってしまった、という経験をお持ちの方も多いと思うが、いわば、それと同様なものがオタマジャクシの歯なのである。
では、「歯」とは何か。それを生物学者に問うと、「脊椎動物の口腔や咽頭に存在する、食物摂取の機能を持つ、石灰化組織からなる器官」という答が返ってくる。
確かにこの定義に沿えば、オタマジャクシの角質歯には石灰化組織は存在しないので、厳密な意味での歯でないことになるが、便宜上、そこは、まぁ、と言ったところか。
角質歯は変態時には脱落して、新たにカエルの顎や口蓋に石灰化組織を持つ、いわゆる本当の歯が形成される。
顎の辺縁に生える歯を顎歯、口蓋に生じる歯を口蓋歯と呼ぶ。口蓋歯は歯が生える骨によって、口蓋骨歯とか鋤骨歯、もしくは鋤口蓋歯などと呼ばれる。有尾類では、口蓋歯の形、位置、数は動物群、種によって大きな違いがあり、分類形質として重視されるが、ほとんどのカエルでは、口腔内、口蓋前部の内鼻腔の間にちょこんと位置していて、あまり目立たない。
顎歯はというと、イモリやサンショウウオといった有尾類のほとんどは、幼生時代から変態した後で歯は生え替わるというものの、上顎、下顎とも歯が生えている。それに対し、何故かカエルの顎歯は上顎のみに生え、下顎には歯は生じない。ヒキガエル類やコモリガエルに至っては、上顎にも歯を持たないのである。
歯の話が歯の歯無しになってしまいましたね。お後がよろしいようで。
熊倉雅彦(日本歯科大学新潟生命歯学部・日本両生類研究会)
(写真説明)
トノサマガエルの上顎。矢印(大)は、上顎歯列に生えている顎歯。トゲ状の歯が一列、歯列に沿って生えています。なお、矢印(小)で示した隆起に口蓋歯が生えていますが、残念ながらこの画像では見えません。ちなみに顎歯と口蓋歯の形態は同じです。