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「蛙昇天」
木下順二
岩波書店
「小説」の棚ではあるが、戯曲も含め文学作品全般をここで紹介したい。
この作品は、実際、1950年に起こった「徳田要請問題」という国際政治事件を題材に、劇作家木下順二(1914〜2006)が戯曲化したものである。
この事件は当時国会をゆるがし、国会の証言に立った通訳の青年が自ら命を絶つ、当時知らない人はいない事件となった。また、作者はこれを事件の翌年に発表したことで、さまざまな議論に巻き込まれ、舞台の上演もなかなかできなかったようだ。
主人公はアオガエルのシュレである。アオガエル(日本)とアカガエル(ソ連)の板ばさみになり、自分が見た通りの純潔な証言が通らないことに絶望していく。
作者はその事件をなぜカエルの世界のこととして描いたのかを作家の姿勢として厳しく追及されることもあったようだ。
「現実のその事件が風化した頃には作品として通用しなくなるのではないか」、「(自分の政治思想を)巧妙にカモフラージュしているのではないか」、等々。
これに対して、作者は1982年の文庫化に際して、そのあとがきにこう記している。
「この作品は、書かれてある通りにすんなりと読んでもらって楽しんでもらえば(または詰まらながってもらっても)それで作者は満足である」。
実際、その事件を知らない立場で、尚且つ、カエルに興味があるからという理由で読んでみても、とても楽しめた。さらに当時の事件や問題とは別に、時代が変わっても普遍性のあるテーマで表現されていることが伝わった。
人とカエルが文学を介して世界観を共有できる可能性に、改めて気づかされた。

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